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U 控除対象財産の積み増しが必要な場合の対策

1 特定費用準備資金に積立する方法

 特定費用準備資金の積立を行うと、遊休財産が目的のある財産に変わるので遊休財産の保有制限を満たしやすくなります。積立に必要となる「取扱規程」「会計処理」「情報開示」等は、収支相償の場合と同様です。

 

 ただし、収支相償の場合と異なって、遊休財産額の保有制限に適合するための特定費用準備資金は、次の点に注意してください。

 

@公益目的事業のための特定費用準備資金に限らず、収益事業等会計又は法人会計で行う事業・業務のための特定費用準備資金を積み立てた場合であっても、積立残高は控除対象財産として認められます。

 

A特定費用準備資金の積立は、「遊休財産額の減少」と「遊休財産額の保有限度額の引き上げ」の両方に影響するので、ダブル効果が生じます。このダブル効果を見越して積立し、逆にいえば過大な積立をしないように留意が必要です。
 ・遊休財産額の保有限度値の計算: 特定費用準備資金の当年度積立額のうち公益目的事業に係るものは、遊休財産額の保有上限額に加算
 ・遊休財産額の計算: 特定費用準備資金の当年度積立額が控除対象財産になるので、遊休財産額が減少

 

【制定することが必要な規程の例】
【word】 特定費用準備資金取扱規程(公益社団)
【word】 特定費用準備資金取扱規程(公益財団)

2 資産取得資金に積立する方法

  資産取得資金の積立を行うと、目的のある財産が増えて遊休財産が減少し、遊休財産の保有制限を満たしやすくなります。積立に必要となる「取扱規程」「会計処理」「情報開示」等は、収支相償の場合と同様です。

 

 ただし、収支相償の場合と異なって、遊休財産額の保有制限に適合するための資産取得資金は、公益目的事業のための資産取得資金に限らず、収益事業等会計又は法人会計で将来取得する資産のための資産取得資金であっても、控除対象財産として認められます。また同一施設であっても、公益目的事業と収益事業等の複数の事業で共用するものを購入する場合の資産取得資金は、公益目的事業の資産取得資金と、収益事業等の資産取得資金とを区別して積立した方がよいケースもあります。

 

【制定することが必要な規程の例】
【word】 資産取得資金取扱規程(公益社団)
【word】 資産取得資金取扱規程(公益財団)

3 公益目的保有財産又は収益事業等供用財産(現物資産)を購入する方法

 現物資産を購入すると、通常はその資産は使用目的のある財産になるので、遊休財産額を減らすことができます。公益目的事業だけではなく収益事業等供用財産(認定法施行規則第22条第3項第2号、収益事業等の財産又は管理業務用の財産)を購入した場合であっても、控除対象財産として認められます。
 この方法を採用する場合の注意点は、次のとおりとなります。

 

@事業年度の終了までに取得しなければ、当事業年度の遊休財産額を減らすことはできません。

 

A現物資産の購入額のうち、資産取得資金を取り崩して取得した部分の金額は、当事業年度の遊休財産額の増減に影響しません。

 

B収益事業用の資産(2号財産)を購入する場合にあっては、公益目的事業を行うために必要な収益事業等その他の業務又は活動の用に供する財産に限られます。そのため、赤字の収益事業等など公益目的事業に貢献していない事業については、その事業で使用する現物資産を購入しても控除対象財産として認められないおそれがあります。

4 公益目的保有財産(金融資産)を積み立てる方法

 公益目的事業に運用益を使用する長期保有財産は、金融資産である公益目的保有財産となります。この公益目的保有財産の積立を無制限に認めると、遊休財産の保有制限を容易にクリアすることができるため、積立が認めらるのはごく限られた場合になりました。次の4条件を満たす必要があります。

 

(1)事業拡大に関して、実物資産ではなくて金融資産を取得して業務を拡大する必要性が明確なこと

 

(2)事業拡大の内容が具体的になっており、それが事業計画等として法人において機関決定等(理事会等の承認、決定)を受けていること

 

(3)運用する金融資産について、その内容及びこれから生じる運用益の見込額が妥当であること及び運用益が事業拡大の財源として合理的に説明できるものであること(事業拡大に伴う費用と運用益のバランスが適当であること)

 

(4)その他、事業の財源として、剰余金を用いることについて望ましい理由があること

5 指定正味財産として受け入れる寄附金の創設

 寄附金の大部分が特定の企業から提供され、これにより事業運営しているような場合には、寄附金の使途の指定が無ければその寄附金は一般正味財産増減の部の収益に計上されてしまいます。
 したがって、寄附者による使途の指定を新設したり、寄附金の募集規程を変更して、「寄附金の全額を○○事業<の不足額>に充当する」旨の制限を設けられれば、当該寄附金は受領した時点では指定正味財産を財源とする特定資産になるので、控除対象財産に該当することが可能です。この方法を採用する場合の注意点は次のとおりです。

 

@過去に受領した寄附金にさかのぼって寄附金の拠出目的を変更することは困難であること

 

A当該「寄附等の使途記載書類」を、備置き、閲覧に供することが義務付けられていること(認定法施行規則第22条第5項、第6項)

 

【備置・閲覧書類(寄附等の使途記載書類)の記載事項】

 

広く一般に募集されたものである場合

左記以外の場合

・広く一般に募集されたものである旨

 

・募集の期間

・受け入れた財産の額※1の合計額

・募集の方法

・募集に係る財産の使途として定めた内容

・金銭以外のものがある場合には、当該金銭以外の財産の内容

・当該財産を交付した者の個人又は法人その他の団体の別※2

・当該財産を受け入れることとなった日

・受け入れた財産の額※1の合計額

 

・当該財産を交付した者の定めた使途の内容

・金銭以外のものがある場合には、当該金銭以外の財産の内容

※1 当該財産が金銭以外のものである場合にあっては、当該財産の受け入れた時における価額

※2 当該者が国若しくは地方公共団体又はこれらの機関である場合にあっては、これらの者の名称

 

 

なお、次のとおり指定正味財産として区分することが適切か否かに注意する必要があります。(平成27年3月26日 公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について 公益認定等委員会公益法人の会計に関する研究会)

 

【指定正味財産に区分することが適切なもの】

a)公益目的事業の○○事業に充当してほしい寄附金

 

b)奨学金事業の奨学金の財源に充当してほしい寄附金

 

c)公益目的事業のために使ってほしい(具体的な事業が特定できない)寄附金
 ・改めて寄附者の意思を確認し、使途を明確化できれば指定正味財産になる
  (寄付者が既に亡くなっている場合は寄附者の意思を関係者に確認)
 ・法人の内部規程で、充当先の事業を特定できれば指定正味財産になる

 

d)指定正味財産の運用益のうち、具体的な使途の制約のあるもの

 

【指定正味財産に区分することが適切でないもの】

a)公益法人のために使ってほしい寄附金

 

b)指定正味財産の運用益のうち、具体的な使途の制約のないもの